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(1)初級者講習で死にかけた話〜前編

 FDMCメンバーRSさんの実体験です。初原稿は1997年、事件はFDMCに来る前ですから1995年頃だったと思います。アクセスや感想の多い記事でした。お役御免と思いお蔵入りさせていましたが、最近、講習生や初級者の事故が増えているようなので、警鐘のため再掲します。古い部分もあります。解説編は少し手を加えましたが、事故の原因は当時とあまり変わっていない例も見聞きします。
(FDMC高松)


<<本人からのメッセージ>>
 この記事をこれからCカードを取ろうとする人が読むことは、きっと少ないと思います。(残念ですが..)
 事故は起こそうと思って起きるわけではありませんが、一旦、起きてしまえば、体はもちろんのこと、精神的に大変な苦痛を伴います。幸いにも、私の場合、肉体的な後遺症はなかったし、今、仲間のダイバーに恵まれて海に戻ることができました。もし、身近にダイバーになろうとしている人がいたら、親身にアドバイスしてあげて下さい。またショップ関係者、インストラクターの方々には、今後このようなことが再び起こらないように、指導方針を改善していただけたら、と思います。
(RS)

◇ ◇ ◇ ◇ ◇
1.「記憶」
 泳いでも泳いでも、なかなか前には進まなかった。気がつくと片方のフィンがはずれて、近くに浮かんでいた。エントリーして間もなくのことだった。
「取らなくちゃ..」
 バランスが悪く思うように進まなかった。インストラクターは、はるか前を泳いでいた。バディも気づいてくれなかった。そのうちスノーケルから水が入ってきた。少し飲んだ。怖くなって一旦スノーケルをはずした。昨日、プール講習のあと恐る恐る質問したことを思い出した。
「あの、あたし、スノーケルクリアが上手くできないんですけど..」
「平気、平気、ストローと一緒だって!」
 インストラクターの答えは即座に返ってきた。よくわからなかったけど、それ以上は聞けなかった。ちゃんと聞いておけばよかったと後悔した。

 フィンの方向に他のグループがいたので合図してみたが、むこうだって初心者講習の水面移動中だし、やっぱり無駄だった。インストラクターは、依然として先頭を泳いでいたし、バディもどんどん離れていった。一人だった。
「何かしなくちゃ..」
 本能的にそう思ったけど、何をどうしていいのかわからなかった。とりあえず泳いでみんなに追いつこうとした。そして、しばらくバタついているうちに、自分が水中にいることに気づいた。自分が呼吸していないことにも気づいた。呼吸を確保しなくてはいけないと思い、レギュをくわえ、昨日プールで1〜2回練習したことをやってみた。きちんと操作したつもりだった。でも、口の中に感じたものは、海水だった。心臓が凍った。周りには誰もいなかった。そして、覚悟した..。
「あたし、死んじゃうんだ..」
「溺れて死ぬ人ってこうなのかな..」
「でも、病気でもないし殺されるわけでもないんだから、わりと良い最後かも知れないな..」

 苦しさとは裏腹に、頭の中は変に冷静だった。一瞬のうちに、人間はいろいろなことを考えるものだと思った。でも、ふと両親のことを考えそうになってあわてて打ち消した自分が、妙に悲しかった。誰も気づいてくれなかった。死ぬことも怖かったけど「孤独なこと」のほうがもっと怖かった。

 急にふわっと軽い感じがした。苦しかったけど、眠るような感覚だった。
「ああ、あたし、もう..だめなんだ..」
 記憶は、そこで途切れていた。

2.「入門
 元々アウトドア派の私は、前々からスクーバダイビングに挑戦してみたかった。でも、その都度、いろいろな理由でお流れになっていた。また、どんなお店があって、講習費がいくらかかって、どういう風に始めていいのかという情報には疎く、多くの人と同じようにダイビング雑誌からの情報が全てだった。
 当時はスポーツクラブに通っていて、週に2〜3回、毎回1kmくらい泳いでいた。水泳自体は嫌いではなかったけど、何か単調な感じがしてきて、それまで延び延びになっていた「ダイバーへの仲間入り」を目指してそのダイビングスクールに行った。「家から近いこと」「レンタル器材で講習が受けられること」「費用が安いこと」それがそのスクールを選んだ理由だった。指導団体の優良店とかいうことは関係なかった。店員の応対は明るく、その後に器材を売りつけられることもなかったし、最初の説明に少なくとも「うそ」はなかった。

3.「学科講習」
 学科講習は20人ほどいた。朝から夕方過ぎまでたっぷり一日かかった。学科講習自体は「こんな感じかな」と思ったが、なにぶん素人には専門用語がぽんぽん出てきてちょっと荷が重かった。「1stステージ」「無減圧」などと言われても戸惑うことのほうが多く、「ここはテストに出るから」と教えられた所には必死で線を引いた。
 学科講習修了にはインストラクターのサインが必要で、このサインは「ログブック」というものに書いてもらうのだそうだ。困ったことにログブックは、講習料に入っていなかった。半ば「配給」のような形でみんな購入した。インストラクターに「違うタイプもありますが、これがいいです」と言われれば、サインをもらう前の初心者にそれを断る勇気は湧かない。結局、Cカード代に匹敵する価格のログブックを手にすることになった。
 最初の説明に「うそ」はなかったのだが「説明不足」は明らかにあった。しかも意図的と思わざるを得なかった。全く選択の余地がなかったとはいわないが、嫌な感じがした。

4.「度付マスクとスノーケル」
 どうしても必要になると思い、度付マスクを購入することにした。度付マスクは結構な値段だが、こればかりは目の悪い自分のせいだ。今では、ショップ価格の半額から3分の1程度で十分購入できることを知っているが、さかのぼって文句をいう気はない。スノーケルが何種類かあり、形や大きさ、価格は案外違うものだと思った。特に、水を飲むのは怖いことだというのが頭にあり、途中がジャバラになっているものなど、形の違いは気になった。
「どういうのが使いやすいんですか?」
「え、まあ、好みですよ」
 アルバイトらしきスタッフの答えは、簡単なものだった。「ほんとにそうなのかな?」という気持ちと「まあ、でも、そうなんだ」という気持ちが半々だった。それ以上聞くための知識は私にはなかった。

5.「書類
 プール講習を前にして、誓約書や健康チェックシートのようなものを提出することになっていた。「花粉症」と書いたら、医者の許可が必要だといわれて再提出になった。再提出時にも不備があるといわれて再々提出になった。そのままでは実技講習に入れない。私が悪いんだけど、案外厳しく突き返されるんだなと思った。困ったことになった。
 不思議だったのはプール実習の担当インストラクターが「ああ、あれね。後でもいいのに」とあっさり参加させてくれたことだ。狐につままれたような感じだった。ありがたいといえばありがたかった。でも、結構気にしていたので、スタッフによって対応が違うのは変だと思った。

6.「プール講習」
 プール講習は、インストラクター1人に対して初心者が8人だった。他に2グループいるので、このスクールだけで30人に近かった。
「一緒に来た人は、なるべく別々のグループになりましょう」
「え?」
 初めて会ったもの同士で「あなた方はバディです」といわれた。レンタルスーツも器材も似たようなものを付け、しかも水中でマスク越しに初対面の人を見た。お互いに自分のバディかどうかよく分からなかった。友達同士で参加していた人は多かったし、私もそうだった。受付のときも、マスクを買うときも、学科講習のときも、友達同士だった。でも、実習ではバディでもなければ、同じグループにもなれなかった。勝手な思いこみだったのかも知れないけど「一緒に始めて」「一緒に習って」「一緒にダイバーになれる」ような雰囲気は、見知らぬバディとの組み合わせで、急に不安へと変わった。周りの人も私と同じような顔つきだった。

 プール講習は、朝から夕方まで続いた。時間的には長かったけど、実際には待ち時間の方が多く、水に浸かっていたという感じだった。スノーケルクリア、マスククリア、レギュレータクリアなど何度も練習したかったけど、1〜2回ですぐ次の人に移ってしまい、一巡すると流れ作業のように次の課題に入った。「こんなんで、ほんとに技術が身に付いたのかな?」と不安になった。
 特にスノーケルクリアは不安だった。水がパイプの中でゴロゴロする感じは、どうにも気持ちが悪かった。「あとでもいいから何でも聞いて下さい」というので、恐る恐る聞いたみた。
「あの、あたし、スノーケルクリアが上手くできないんですけど..」
「平気、平気、ストローと一緒だって!」
 インストラクターの答えは即座に返ってきた。そして、他のインストラクターと一緒に「そんなことより早く宴会に行こう!」と催促してきた。スノーケルクリアのことはよくわからなかったけど、それ以上は聞いてはいけないような雰囲気だった。次の日に後悔するとは思いもよらなかった。

7.「その日の朝」
 台風一過の、天気の良い朝だった。暑くなりそうな予感がした。海洋実習は、昨日と同じようにインストラクター1人と受講生8人で始まった。
「器材をセッティングして下さい」
「終わったら、バディチェックして下さい」
「いいですか?」

 器材に触れるのは人生で2回目の経験だった。素人バディ同士「これでいいのかな?」などといいながら、怖々とセッティングをした。インストラクターのチェックはなかった。
「はい、ではしばらく水面移動して、水深6m地点に潜降します。ついてきて下さい」

 次から次へと指示が飛んでくるようで、落ち着かなかった。インストラクターが先頭に立ち、海に入っていった。受講生組もあたふたとついていった。私は一番後ろになってしまい、みんながほぼ一列に泳いでいたこともあって、先頭のインストラクターからはずいぶん離れてしまった。
「追いつかなくちゃ..」
 泳いでも泳いでも、なかなか前には進まなかった。気がつくと片方のフィンがはずれて、近くに浮かんでいた。エントリーして間もなくのことだった。そして、事故は起きた。
(RS)


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